※友人カップルを進展させるためのお話です



今日は部活も何もない珍しいオフ。
いつもは時間に追われるくらいの忙しさだが、そんな慌ただしさは今日はない。
そんな中、2人の男女がいた。
この2人はいわゆる「付き合っている」というやつだ。
とは言っても、2人の付き合い方はドが付くほどのピュアさである。
実際がどこまでなのかは誰も知ることは無いが、カマをかければすぐにわかるだろうというレベルだ。
そんなド健全な付き合いをしている2人は、受験生であり、今年はいわゆる勝負の年。
残すところ8ヵ月弱となった2人は雨という天候もあり、自宅に呼び勉強をしようということになった。
受験まで時間が差し迫ってきているというのもあるのだろう。
だがきっとそれが全てでない。
…言うまでもないことである。
思春期真っ盛りなカップルが相手の家で2人きりの密室なのだ。
[そういうこと]が起きないこともない。
そして、今。
少女は少年の家に上がり、「おじゃまします」の一言を発し、少年の親から今にもニヤニヤという効果音が聴こえるようなニコニコとした笑顔で出迎えられ、少年の部屋に入る。
どこでも好きなところに座っていいよ、と告げるが、少女は立ち尽くしていた。
どうしたのだろうと思い、顔をのぞき込んで見る。
……汗、だろうか、緊張している。
顔からは何とも言えない表情が見て取れた。
状況を理解した少年までも黙り込む。
気まずい。
たいへん気まずい。
とにかく勉強していれば大丈夫だと思い、少女を机の周りに誘導する。
少年は少女と対面する形で、向かいに座った。
そこから一時間は大丈夫だった。
最近の部活や、友達との遊び、学校で互いにあったことなど色々と話に出しながら、勉強していた。
表面上は、勤勉で真面目なカップルに見えただろう。
しかし、明らかにぎこちなさを感じる。
やはり互いに恋人が部屋にいるということを意識しているのだろう。
ふと会話が途切れる。
それと同時に少年も意を決したのだろうか。
ペンを持つ彼女の手を握る。
「どうしたの?」と聞くが、少年はまともに返事もできないくらい脳内で思考を張り巡らせている。
もしも。
ここで誘って拒否されたらどうする。
いいや、そもそもそういうのは無理とでも言われてみろ、当分ショックで二重の意味で死んでしまう。
生理とか言われた日にゃもうどうしようもない空気が生まれる。
どうすべきか。
何が最善策か。
この脳内会議2秒。
少年は自分の心のまま動いた。
あのさ、と声をかける。
少女は黙ったままだ。
ここまで来て出した手を引っ込めるのは相手にとっても失礼だ、と判断した少年は、決意を固める。
立ち上がり、向かい合って座っていた少女の後ろにしゃがみこむ。
恥ずかしいし、勇気を出さなければならないが、もしかしたらこの後それ以上のことをするかもしれないのだ。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
少年は後ろから少女の首に腕を回し、顔が見えない程度の近さまで抱きしめる。
静寂に包まれる。
部屋から音がなくなる。
聴こえるのはただ、雨音と相手の鼓動。
さっきよりも早くなっているのは気の所為だろうか。
少年は耳元でそっと少女の名を囁き、1つ彼女に頼み込むような形で聞いた。
『    、ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ?』
これをどんな理由であれ断られれば、後の時間が少なくともクソ気まずいことになる、一世一代の賭けである。
少年は静かに返答を待つ。
そうすると相手の鼓動よりも自分の鼓動が早いことに気づく。
雨音が聞こえないほどの大きさで打ち響く。
破裂してしまうのではないかと疑ってしまうくらいだった。
このまま弾け飛んで、ご臨終なんてことはたくさんだが、事実、それほどまでに少年の心臓は動いていた。
そして、ついに彼女の口が開く。
いつもは笑顔で可愛らしいその唇からどんな言葉が出るのだろう。
どうなるだろう。
少年は自分の耳に全神経を傾ける。


パンドラの箱、というものを知っているだろうか。
開いてはいけないと呼ばれるその箱を、人間は開いてしまったが故、世界に災厄がまき散らされたという話だ。
箱を急いで閉めた結果、箱の中には希望だけが残ったともいう。
つまり、どんなものも中途半端より開き切る方が良いのである。